【長編小説】妖狐の娘の道すがら-ミレハ帰郷記・序- 第7話:衝突

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 ―――人目を気にせず、パメルス商会への最短ルートを走る。
「くそっ…何が大商人だ!」
 タタラはいつもになく、怒りに満ちていた。孤児院から大通りを下っていき、露店の並ぶ大広場の手前から裏の細道に移り、下っていくと港に着くなりちょうどパメルスが商会の建物へと入っていくのが分かった。
「パメルスっ!」
 タタラが怒鳴り声を上げるとパメルスは不思議な表情で彼のほうを向いた。
「おやおや~?貴方は確か孤児院の子どもたちに野蛮な殺人術を教えていると噂の先生じゃありませんか」
「…そんな御挨拶はどうでもいい。シスターに言った孤児院の子どもを…僕の生徒を寄越せとはどういう意味だ!」
「何を怒鳴っているのかと思えばその話ですか。子どもたちが惜しいのなら断ればいい。―――ま、断れればの話ですが。」
 パメルスの悪意に満ちた表情にタタラは拳を握り締めその場で震わせる。
「ウチが自給自足では足りないほどに孤児が増えている事くらいお前は知っているはずだ…お前はそれを分かっていながらシスターの悩んでいるところをつけ狙って脅迫した。そうだろ。いや…この際だ。―――お前が手に入れたいのは《《誰だ》》?」
「―――これは鋭い。そこまで見抜かれましたし、その湧き出る怒りからして…この私が何を求めているかも見当がついているのでしょうね。えぇ、一目見た時から《《あの毛並み》》はこの世のものとは思えない美しさだ。希少性の高い毛はゴロゴロとウチに回ってくるが、あれほどの毛並みは見た事がない。しかも生きている…!生きているのですよ!?永遠と毛を流通させられるじゃありませんか!!これで一儲けすれば一生安泰モノですよ。それに今回は特別協賛してくれるお方がいらっしゃるのですよ。毎年毛を取らせていただく代わりに、本体はその方が買い取ると仰っているのです!これぞ商売!一山当てるどころの話じゃあないのですよッ」
 いひひひ、と最高に反吐が出る笑い声でタタラへ熱弁するパメルス。
「…お前の商売はどうでもいい。だが俺の生徒を売り者扱いする人間のクズは許せない…!」
 パメルスとタタラの距離は20m。その距離からは考えられない速度を以ってタタラはたった一歩で拳を叩き付けられるほどに距離を詰めた。しかしその拳は鈍い金属音を立ててパメルスの顔面寸前で止められてしまう。
「遅かったですね…もうすぐで商会の看板ともいえる私の顔が潰れるところでした」
 パメルスが語りかける相手は甲冑の騎士。
 騎士という存在は各国の軍事力そのもの。
「…まさか国王が…!?」
「御明察」

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 タタラの戸惑いを察知したのか、甲冑の騎士が右手のブロードソードを切り上げるもタタラはそれをステップで難なく回避する。
「…ほう。牽制だったとはいえ私の一撃を躱すか」
「牽制っていうのが見え見えだったよ。自分の事を過剰評価しているようだけど、ド三流もいいところだ。ま、僕も君も互いの事は”邪魔者”っていう認識だけで十分だけどね」
「この私を舐めるんじゃない!」
 タタラの挑発に甲冑の騎士は剣を震わせ、次は大振りをしてきた。騎士がタタラの顔面に刃が届くかと思った次の瞬間、二回。銃声にも似た音が日の落ちた港に響く。
 騎士は盾と剣を落とすとお腹を押さえて呻き声を上げると両膝から崩れ落ちた。
「き、貴様…何を…」
蹲っている騎士が籠った声でタタラに問いかける。
「たった二発。君を小突いただけさ。殺す気で来た君への自己防衛だよ」
「何と言う力…。殺人の武術を教えているというのは本当のようですね、タタラさん」
「タ、タタラだと!?相手がタタラだなんてそんな話聞いてない!」
先ほどまで呻き声を上げていた甲冑の騎士がハッと顔を上げて驚いた様子でタタラを見る。
「…はて?タタラさんが相手だと何か問題なのですか?」
「貴様こそ何を言っているッ!この男…いや、この御方は―――」

―――先代アルスレッド国王直属の精鋭部隊
        【アルスレッド王下騎士団】団長―――聖魔のタタラ

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