【長編小説】妖狐の娘の道すがら-ミレハ帰郷記・序- 第16話:踊りの受付

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【長編小説】妖狐の娘の道すがら-ミレハ帰郷記・序- 第16話:踊りの受付

 夕刻、町に集まったアルスレッド国民の合図で収穫祭が始まった。酒の入った勢いで大人たちは盛大に騒ぎ立てる。
 その光景を見て輝夜は苦笑いする。
「もうちょっと静かなものだと思ってた…」
「そっか、カグヤは初めてだもんな」
 うん、と輝夜は頷き一昨年は風邪で寝込み、去年は他の子どもたちの看病に追われていたのを思い出していた。
「ギルは?」
「俺は一昨年は行ったかな。去年は…今だから言えるけど、俺も看病に回ってたな。別室にいた症状が重い子とかの…って何だよっ」
ギルバートが去年を思い出して言いながら輝夜のほうを見ると、柔らかく微笑んでいた。
「やっぱりギルはガサツそうだけど本当は優しいんだね」
 両手を後ろに回して微笑んだまま無意識に上目遣いで目を細める輝夜。その仕草にギルバートは目を奪われた。
「照れちゃって可愛いね、ギル」
「う、うるせぇ!ほらさっさと行くぞ!受付があるからな…ってかカグヤお前…踊れるのかよ」
「うー…ん。多分っ」
 輝夜の回答にこけそうになるギルバート。彼女の無邪気さに思わず顔が緩みそうになる。
「じゃあ…何とか引っ張ってやるよ…」
「本当っ!?ギル踊れるんだ?」
「タタラ先生がエスコートは騎士の嗜み。踊りとなると更に、って言ってたからな…シスターに教えてもらってたんだ」
 目を輝かせる輝夜に対してギルバートは照れくさそうに後ろ髪をいじる。
 出発時点から繋いだままの手を二人は握りなおすと豊穣の踊りをする会場受付へと向かっていく。その時だった。輝夜がビクっと反応するとその耳がピクピク動く。
「どうしたんだ?」
「…今、何か遠くから呻き声のような…叫び声のような…音が聞こえた気がして…」
「遠くっていうか町中で叫んでる大人たちはいっぱいいるんだぜ?気のせいだろ」
 そうだよね、と輝夜は耳をパタリと倒す。
「そこの子たちぃ。受け付けはここよぉ~」
 あまりの人だかりに受付を通り過ぎようとしていたギルバートと輝夜に受付をしていた仕立て屋のモンバットが太く堅そうな腕をしなやかに振って招き寄せる。
「仕立て屋さん、受付をやっていたんですか?」
「毎年交代なんだけどねぇ、今回は私が担当みたいよぉ…さ、受付を…」
と、突如ギルバートは突き飛ばされ、宮廷服に身を包んだ男性が輝夜の手を握る。
「輝夜はこの僕と踊ります。初めまして、モンバットさん」
「随分と乱暴な真似をするのね、貴方」
「薄汚い孤児が触れていいものじゃないですからね。彼女に触れていいのはアルスレッドの王子である僕ただ1人。普段であれば即刻斬首するところだが、今日は祝いの席だから特別に見逃してやる。その不釣り合いな服を脱いで裸で孤児院に帰るんだ」
 とスピネル王子がギルバートのほうを向こうとした瞬間、輝夜の手を握っている手が無理やり引きはがされ、彼の体が地面から少し浮いた。
「この私がギルちゃんに作ったのよ。彼の雰囲気が十分に出るようにね。…服はともかく…王子だろうがなんだろうが、祭りでは身分は関係なく皆平等。人の恋路に身分振りかざしてんじゃねぇぞ小僧…」
 と、近くの地面へと投げられるスピネル。
「僕が王子と知っての事か!ふざけるな、ただの仕立て屋の店主が王族に刃向うなんて叛逆罪にも等しい!」
 すかさず剣を抜くスピネル。その光景を目にしたアルスレッドの国民たちはすかさずスピネルの剣を奪い、彼の手に届かないように捨てる。
「王子の貴方に文句は言わねぇけどよ…祭りを血で染めようってんなら私たち国民はタダじゃおかない。他国の兄妹たちも来てんだ…身の程を弁えろ」
 モンバットはスピネルを睨むとすぐ様にギルバートにかけより、体を起こすのを手伝う。
「さぁ皆ー!今日は初参加の半獣狐族の女の子が人間族の男の子と踊るから応援してあげてねぇー!」
 町中の人間が再び手を握った輝夜とギルバートに歓声を上げる。輝夜は照れてしまい顔を真っ赤にするが、ギルバートはすぐにスピネル王子に向き直る。
「見てろよ王子!お前なんかより俺のほうがカグヤと踊るに相応しい事を証明してやるッ!」
 と、王子へ指を差しながら宣戦布告をする。その行動に周りの国民はいいぞいいぞー、と更に歓声を大きくする。
 地面に座り込んだ状態でそれを受けたスピネルは怒りを顕わにして王城へと帰っていく。
「漢気あるわねぇ…頑張りなさいよ栄えある未来の騎士くんっ」
 モンバットの大きな手がギルバートの背中にクリーンヒットすると、あまりの痛みにギルバートは体を反らし、歯を食いしばった。
「モンバットの姉さん。活入れあざっす!」
 輝夜から手を離し、両手を握りしめるとモンバットへ深く頭を下げる。
 モンバットは濃い顔をにんまりとさせると会場へ歩いていく二人を見送った。

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