【長編小説】妖狐の娘の道すがら-ミレハ帰郷記・序- 第17話:舞踏―――絶望。

【長編小説】妖狐の娘の道すがら-ミレハ帰郷記・序- 第17話:舞踏―――絶望。

前のお話

【長編小説】妖狐の娘の道すがら-ミレハ帰郷記・序- 第17話:舞踏―――絶望。

 会場には町の夫婦やカップルが身分関係なく集まっていた。
 町の楽団も自分たちの楽器の調整をしていて、周りには酒を飲み、盛り上がる観客たちがいる。もちろん、酔っ払いが踊りの邪魔をしないように高い柵が設けられている。
 祭りの踊りについては特に決められた踊りの形式はない。ただ愉快な音楽に合わせてそれぞれの踊りを披露すればいいだけ。町の人たちが気を使ってくれたのか、ただの偶然か。ギルバートと輝夜は会場のド真ん中に位置取る事が出来た。
 楽団の準備が整ったようで、すぐさまに演奏が始まる。ゆったりとしたリズムでありながらどこか壮大な物語を感じさせる音楽だ。
 踊り手のほとんどは体を揺らしながら元気よく踊っている。その中でギルバートと輝夜もそれに合わせ、体を揺らして踊り始めるが他の男女よりも体の距離が近い。
「凄く元気が出る演奏だね」
「ああ、勇気も出る気がする」
 各々が回ったり、女性を男性が抱き上げたり、個性溢れる踊りが繰り広げられる中、輝夜とギルバートは互いに見つめ合い、あえて静かな雰囲気で踊っている。
 しかしそれに対して、ヤジを飛ばす大人はいない。子どもとは思えない美しい顔立ちの輝夜とそれをエスコートするギルバートの姿に1人、また1人と魅入られていく。
「あの二人どこの子だ!?」
「確か孤児院の子よ、私見た事あるもの」
「二人が孤児?!嘘つくなよ、ありゃぁ由緒ある家の出だろ…あまりに綺麗すぎるぞ」
「他も凄いが、あの二人はどこか引きつけられるな…」
 と、観客の人々が次々と呟いたり、人を呼び込んでギャラリーが増えてを繰り返し、ついには祭りの参加者全員が踊り手たちの周りに集まる。
 揺らめく炎を背に、輝夜はギルバートに完全に密着する。
 その行動に周りの観客は指笛を鳴らし、盛大に祝福する。踊り中の体の密着はアルスレッドにおいて恋に落ちた事を表すためだ。それを輝夜が知っているか否かは別として。
 それを観客として見ていたリリエルとオスロット。
「…あーあ。こりゃ完全敗北だ、私」
「祭りなのに落ち込んじゃっていいのかい? リリエル」
「ダメに決まってるでしょ…こうなったら新しい恋を見つけるのよ…!私がちゃんと振り向くまで私を見張る事。いいわね?」
 オスロットは照れ笑いをして大きく頷く。そしてリリエルに引っ張られ、大観衆の中を抜けると数ある出店から食べ歩きをし始めたのだった。
 踊りも演奏も最高潮を迎える頃、ギルバートは密着している輝夜を見つめていた。
「輝夜、言いたいことがある…」
 輝夜は黙ってギルバートを見上げて”その言葉”を待つ。
「俺はお前が好きだ…これからずっと一緒にいてほしい」
 輝夜は途端に顔を真っ赤にして口を震わせ、演奏が終わると同時にギルバートの脇の下から背中へと手を回し、目を閉じる。その合図が何かを察するのに時間はいらなかった。ギルバートはそっと輝夜の後頭部に手を添えて引き寄せながら彼女の唇が目前に迫った瞬間に、自分も目を閉じ唇を重ねようと―――――したその時。
 遠くから男女の悲鳴が複数聞こえ、太く唸るような絶叫が町全体へ響き渡る。町全体が途端に困惑とどよめきに溢れる。巨人族にも似た低い声の絶叫。建物の破片が町中へと飛んできた途端、町中は悲鳴で溢れ、角笛が国中へ届き、光の玉が国の上空へ上がった途端、何かが国を覆う。タタラの結界だ。
 しかし、この国を守護する役目を持つ騎士団の姿はない。輝夜とギルバート、リリエルとオスロットはそれぞれ町の人々が逃げて行くのと同じ方向へ走っていった。

 ―――王城。
「陛下!陛下ァ!魔女から送られてきた命令用の呪石に何を命じても反応がありません!まるで暴走です…!王下騎士団の中でも指折りの精鋭が…この国を守護するはずの者たちが国中を蹂躙し破壊の限りを尽くしています!」
「陛下ッ!町の被害大多数!死傷者も数知れず!今すぐ騎士団と残った王下騎士団の出撃命令を!」
 王城内は大混乱だ。町の状況の把握や襲撃してきた者の数など様々な情報を収集するのに一般兵士たちが高台と場内の往復を繰り返している。
「…こんなはずでは…その呪石にて命令すれば主の命令は必ず聞く最強戦士たちが出来上がると…」
 国王の顔は青ざめている。それもそのはず。事前に魔女から説明を受けた時には口にした通り、自分の命令を聞く兵士になると聞いていた。タタラが死んだ今、狂戦士たちの意味はないが、今後に使える。ただ、鎮静を命令しても国の被害を留める事は出来ていない。見張り役からの情報だと体長は個別差はあれど2~3m。筋肉の塊のような巨躯がその豪腕で町を、人を破壊していく。
「陛下!ご英断を!今ならまだ最小限に留める事が出来ます!」
「くぅっ…!アルスレッドの全騎士団を狂戦士討伐へ向かわせよ!!その命を以って国を守れと伝えるのだ!」
 伝令係は直ちに急行する。王城に待機している騎士団へ、王の言葉を伝えると騎士団たちは一斉に雄叫びを上げ、城下町へと駆けて行く。
「どうか神よ…我が過ちを許したまえ…そしてこの国を救いたまえ…」
「信じてもいない神に祈ったところで陛下の過ちは消えない。そして…残存勢力ではあの狂戦士たちの猛進を止める事はまず不可能です」
 カチャと王の死角に着地する音が聞こえる。頭の鎧を外し、男は国王に断言する。
「貴様は…!何故ここに!死んだはずでは・・・」
「王下刻印を私に。なれば今一度この国のために立ち上がりましょう」
「聖魔のタタラ…!」
 タタラの目はその奥に怒りを顕わし、しかしあくまで冷静に国王へ呼びかける。
「…国を裏切ったお前に、私が王下騎士団を一任したという証を素直に渡すとでも…ッ!?」
 国王の胸ぐらをタタラは勢いよく掴み、国王のそのまま壁へ叩き付け、顔を近づける。
「時は一刻を争う!お前は私欲のために国を犠牲にするのかッ!民あっての国だろうが!戯言は終わってからにしろッ!ラピス!」
 タタラの左腕が怒りで震えている。今にも国王を殴りそうであるが、決してそんなことはしない。
「くっ…分かった…分かったから早くその手を離してくだッ―――刻印を聖魔のタタラに!」
 胸ぐらから手を離され、地面へ尻もちをついた国王が即座に大声で呼びかけると、伝達係はそれを笛で知らせる。すぐさまに焼印を持った職人が城内へ入ってきた。タタラの鎧の肩へとそれは押される。そして国王がその焼印に手を添えると、その刻印が青い光を発し始めた。
「これより聖魔のタタラ。王下騎士団を率いる者として狂戦士から国の防衛、民の救出に向かいます―――安心しろラピス。《《俺の騎士団がいる》》」
 ―――国王は青ざめていた表情から一変、目を大きく見開く。それは希望の種が芽吹いた瞬間であった。

次のお話