【長編小説】妖狐の娘の道すがら-ミレハ帰郷記・序- 第18話:アルスレッド防衛戦

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【長編小説】妖狐の娘の道すがら-ミレハ帰郷記・序- 第18話:アルスレッド防衛戦

 ―――巨大な暴風たちはアルスレッド王国を取り囲むように散開し、中央の王城へ向かって侵攻を開始している。死傷者は次々と増え、建物が倒壊した二次被害で火災が国中のあちこちで発生している。
 10分ほど遅れて王国の一般騎士たち総勢500名が駆け付けたが、狂戦士の勢いはまるで止まらない。生半可な騎士では剣を構える前に上空へ吹き飛ばされるほどの猛威。
「くそっ…!なんだこの化け物たちは…ありえない…巨人族でもこれほどではない…」
 盛り上がった筋肉だらけの巨躯。肌は焦げたように黒く堅い。言語能力を失い、ただ絶叫しながら立ちはだかる敵を壊す。まさしく狂戦士。
 アルスレッドの南側で彼らの攻撃を観察している一般騎士団の団長は歯ぎしりする。《《アレ》》には対処出来る戦術など存在しない、今すぐ逃げろ。と体が震えてそれを教えてくれている。だが王国の騎士であるからには国を守るのが義務。
 考え込んでいる団長の肩にポンと手が置かれ、それに振り向くとその騎士の肩には王下刻印が押されていた。
「我々王下騎士団が指揮を執る!君は国民の避難誘導を頼む!ゆくぞ、王下騎士団!全ての狂戦士を集めよ!」
 ユクトワールが不在の中でも王下騎士団は乱れない。代理で王下騎士団を率いる男が手を上げると後ろにいた魔法騎士が剣の先から火の玉を上空へ上げると、全ての狂戦士が代理の元へと進路を変えてやってくる。
「今こそ見せる…我が力…!」
剣を抜くと刀身に大量の魔力が込められていく。
「喰らえ!アルスレッドを侵すバケモノども…!」
 その場から真上に跳躍し、魔力を纏った剣を横へ薙ぎ払った。
 魔力により形成された刃によってリーチが長くなり、遠くの敵をも斬れるという一般的な騎士の術、【魔法剣】である。
 3体ほど首を斬って沈黙させるが4体目の個体の首を斬ったと思いきや、その巨躯に似合わぬ瞬発力を以って50mほどあった距離を一気に詰められ、いとも簡単に剣を握られてしまった。それと同時に代理の騎士はある事に気が付く。
「貴様…っ!…それは王下刻印…化け物の分際でどういう真似だッ!…まさか貴様…王下騎士団―――」
の者か、と言いかけたところで男は頭を潰され、肉体が潰れた音と共に地面へ落下する。
「うそ、だろ…王下騎士団でも勝てねぇのかよ…!」
 一般騎士団の団長とその団員達が避難誘導を開始するや否や、肉塊となってしまった王下騎士団の男を見るなり、自分たちの国を侵攻している敵の強さに戦慄する。悲鳴を上げる者、逃げ出す者と一般騎士団の団員たちは立ち向かう勇気のかけらもなく、散り散りになっていく。その中の3人が狂戦士の手の中に捕まる。悲鳴を上げ、その声に狂戦士が彼らを握りつぶそうとしたその時だった。
 男たちを握っていた手が止まり、狂戦士の首が3体同時に斬り落とされて轟音を鳴らしながら地面へと倒れた。
 倒れた狂戦士の死体の上に乗っかるタタラ。
「無事かい。アルスレッドの騎士団さん」
「あ、あんたは…?」
 騎士の問いかけに頭の甲冑を脱ぎ笑みを浮かべる。近くにきた二人の女騎士、メローナとルミリアに合図をすると、メローナが国中の影という影が伸ばし、ルミリアがそれを有幻覚で増加させ、狂戦士たちを全て縛り、身動きを取れないようにした。
 そしてルミリアがタタラを巨大化、させたように見える幻を創り出す。
「手早くお願いしますよタタラ様…」
「…僕は先代アルスレッド国王直属部隊 王下騎士団団長。タタラ・ディエネ・ロアクリフ」
 国中に響き渡るその声はタタラの声量増幅魔術によるものだ。タタラの身振り手振りは巨大化した幻にも反映されている。
 その姿、その声はリリエルとオスロットに届いた。
「タタラ先生だ…僕たちを助けに来てくれたんだ…!…歴代最強の名を轟かせた先代王下騎士団の団長だったなんて…!」
「タタラ先生さっすがだよ…かっこいい…」
 ギルバートはただ単に、タタラの姿に息を呑む。
「今暴れている化け物たちを倒すためには国を守る騎士たち全員の力が必要となる。そのため僕を一時的でも信じてほしい。信じるに値するかどうかは国王から授かり、この肩に刻まれた王下刻印が全てを示すだろう!今こそアルスレッド王国騎士団の底力を見せる時…!そして国民は皆、国の宝、我らが守るべきもの!ならば、目の前の巨躯に臆するな!立ち上がれ!王下騎士団を初めとする騎士たちがいる限り、我らは負けはしない!なればこそ、それぞれの役目を自分で判断し、全力で行動せよ!国民を!国を守るぞォォオオ!総員!かかれェエエ!」
 タタラの鼓舞に騎士団全体が雄叫びを上げる。そして一般騎士団は国民の避難誘導と護衛を、現王下騎士団は周囲の建物の崩落による被害を最小限に抑えるべく散開した。
「タタラ様…もうそろそろ…限界…ですっ…ッ!」
 影をコントロールし、狂戦士のバカ力に魔力で動きを止め、拮抗していたメローナが影から手を離すと一斉に狂戦士の侵攻が再開される。
「ルミリアッ!」
「人使いが荒いわねぇ…有幻術《ファントムマジック》 大地奮起《グランドクエイク》」
 45体もの巨躯が実体を持った幻の岩柱によって宙へと叩きあげられる。
 いくら地上で強かろうと空中では無防備そのものだ。
「メローナ!一ヵ所に集めて!」
「暗影魔術《シャドウマジック》影包み!」
 メローナは空中の狂戦士たちの重なりによって出来た僅かな影を利用し、それを限りなく薄く広げ、全ての狂戦士たちを包んで丸めるのではなく、空中で《《一列に》》並べた。
「万象魔術《オールマイティマジック》 炎熱槍《ボルカノランス》!」
 タタラは頭上で指を鳴らすと、鳴らした指先から炎が燃え上がり、それがわずか5ミリもの槍へと形状を変えれば、それに手を添えて勢いよく振り被ると縦一列に並ぶ狂戦士たちへと投げつけた。一体目の巨躯にあたるなり、突如炎が怒り狂い、次々と狂戦士の体を焼いては貫いていく。そして全ての狂戦士が貫かれた瞬間、巨体全てが炎へと包まれ灰へと変わり、風に散っていった。
 その頃にはタタラの巨大幻影も消えていて、一仕事終えたタタラは一息ついてホッとしていた。
「良かった良かった。随分鈍ってたから息を合わせるのが大変だね。サポートありがとう、メローナ、ルミリア」
「どーって事にゃいですよんっ、お礼なら今晩のおかずに私を食べてくれてもいいんですよ?」
 という言葉をタタラは無視してルミリアに頭を軽く下げる。
「タタラ様ったらぁー!いけず―――ッ!?」
 瞬きをする瞬間に、タタラがメローナとルミリアの目の前からいなくなった。代わりに巨大な足がそこにはあった。タタラがいなくなったのではない。尋常ではない速度で蹴られたのだ。
「他の個体より一回り大きいわね…でもさっきの連携で侵攻している全員を打ち上げたはずなのだけど…」
 ルミリアとメローナはその場から距離を取る。
 侵攻を開始していた狂戦士はあくまで目の前の一体より格下の存在。
 本命の狂戦士《こいつ》は国の入り口で待機していたに違いない。
 考えていると突然ルミリアとメローナの視界が薄暗くなる。
 狂戦士はたった1歩で200mもの距離をほぼゼロにしたのだ。
 狂戦士の拳が目の前まで迫るが、その拳は簡単に打ち返され、狂戦士はそのまま背中から倒れた。
「おっそいよぉ…」
「ごめんなさいねぇ?国民の避難を最優先にしていたの。私が一番皆の近くにいたからね。久方ぶりよ、同胞《きょうだい》」
 建物をも砕く狂戦士の拳を軽々と打ち返したのは仕立て屋の店主、モンバットだった。
「それでもよく打ち返せたわね」
「たかが《《小物》》だもの。私が今怖いのはタタラちゃんくらいよ」
 起き上がってくる狂戦士を尻目に、メローナとルミリアは相も変らぬ仲間の姿に笑みを浮かべる。
 ―――元王下騎士団 英腕のモンバット
 2mの巨体に溢れんばかりの筋肉を活かし、己が拳のみで戦う拳闘士である。

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