【長編小説】妖狐の娘の道すがら-ミレハ帰郷記・序- 第24話:北の大地

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【長編小説】妖狐の娘の道すがら-ミレハ帰郷記・序- 第24話:北の大地

東西へと横に長く、およそ2000万平方キロメートルに及ぶ広大な北の大地。
 騎士団国の連合地帯。セクバニア騎士団国連合。
 大小はあれど、認可されている騎士団国は1000を越える。
 各地の騎士団国の代表が連合の中心となっているセクバニア騎士団の治める領地へ、定期的な会議をしに使節団と共にやってくる。帰路の時には大量の食糧や特産物を買い占めていく使節団も少なくないため、セクバニア騎士団国は商人たちにとっても商売の要と言える都市だ。
 都市のどこを見渡しても人だらけ。
 商人の誰もが道行く人に威勢よく口上を述べ、自慢の品を売りさばく。
 これで活気に満ち溢れているのは中心都市のセクバニア騎士団国だけではないというのだから大国の統治をしている人物は確かな手腕と類稀なる才覚の持ち主なのだろうと道行く人の誰もが言う。
「じゃあその持ち主はずっと城にいるんだろ?」
 旅人が野菜の叩き売りをしている商人へ聞く。
「いやいやぁ、俺たちの王はとんでもなく頭が狂ってやがんのさ!」
 無精ひげを指で撫でながら陽気な声色で商人は言う。
 どういう事だ、と旅人は聞く。
「なんていったって遠く離れた場所にいながらこの騎士団国連合全体の平和を維持してくれてんだ!すげぇんだぜ?!その王様が久しぶりに帰ってくる、って噂が日が昇り始めて落ちる頃には国中に広まっちまってんだ。それくらい王はすげぇお人なんだぜ!この間なんか―――」
 商人が王の事を自分の事のように話しているとセクバニア騎士団国中心部に位置する巨大噴水の広場に流星が降り立つ。
 途端に都市全体が騒ぎ始め、騎士たちはピクッと甲冑の音を鳴らし、全速力で広場へと向かう。
 広場付近にいた騎士たちから順番に整列し、片膝を立て、深々と頭を下げる。
 流星は地面に落ちていながら神々しい光を放出し続ける。
 やがて全ての一般騎士、総勢5000名が整列を終えると流星も光が収まり、中から二つの影が現れる。
『我らが王の帰還に喝采を!』
 騎士たちが声を揃え、都市の人々は拍手で王を出迎える。
「…座標を間違えたな。王城に直行の予定だったのだが」
「ぜーったい嘘でしょ…うっかり魔女気取らないでいいから…。そもそもあのド派手な転送魔法だったら座標がどこでも皆気づくってば…」
 ローゼンとタタラがさも当たり前かのように出てくる。王の帰還とは思えないほどに。
「ロアクリフ王!お戻りになられましたか!」
 騎士たちをかき分け、一人の騎士がタタラとローゼンの元で膝をつく。
「やぁマルスくんっ」
「その軽いノリはおやめになってくださいますか!?貴方はセクバニア国の象徴であり、騎士団国連合の統括をされているのですからもう少し立場を弁えてください!…ところで隣の女性と負ぶっているその娘は…?」
「嫁と子ども…だよ?」
 タタラは首を傾げる。何かおかしい事があるのか、と。
「…はい?もう一度お聞きしますが―――」
「嫁と子ども」
 タタラの応答への不満を顕わにして、困った様子のこの騎士は、セクバニア騎士団国の領主。マルス・セクバニアである。
「いやですから―――」
「王妃と養女だよ?いいね?」
「なりませんよ!?断じてなりませんからね!?そうやって唇を尖らせてもなりません!」
 タタラの反応を音速を超えるかのような勢いでツッコミを入れるマルス。
 それを越える速度でマルスの横を、タタラとローゼンは抜けていく。
 マルスが横目でタタラを見た瞬間に、ぼそりと声が聞こえた。
 ―――詳しくは僕の城で話す。
「って事でバイビー!」
「ちょっと!?タタラ様!お待ちくださいませ!」
 とっとこ走り、城のほうへ向かうタタラとローゼン。
 その後を追いかけるマルスに一般騎士たちもぞろぞろとついて、都市の中心部を駆けまわるその姿はまるで戦争から勝利を持ち帰った凱旋のよう。
 タタラがこの騎士団連合の象徴と知らない人から骨董品を盗んだ泥棒を追いかける騎士たち、と言われてもおかしくはない。
「何故あの場で話さないのだ。走って移動などらしくもない」
「これが僕流さ。こそこそとする国の象徴なんてただの置物だからね。王っていうのは民の信頼を勝ち得てこその存在。だからこそ、こうやって帰ってきた事を知らせるのさ。あとついでに君の運動不足改善」
 軽く流すように走っているタタラはローゼンを横目に見てニヤッと笑う。
「なるほどな。確かに運動不足は改善されるだろう。私がまともに走ればの話だがな」
 タタラはローゼンの足元に視線を落とす。
「浮遊して僕と同じ速度で移動してるんじゃ意味がないでしょ!?」
「別に太っているわけではないし、走る意味が理解出来ん。お前は私くらいの肉付きが―――」
「僕は何でも知っているはずの君に唯一常識力が無い事が理解出来ないよ?!」
 タタラは走りながら手でローゼンの口に封をする。
「しかしタタラ。王城は反対側だろう。全く反対方向に行っているではないか」
 ローゼンは自身の口を押さえているタタラの手を取り、手を絡ませると都市中央に位置する王城を指差す。
「あれはあくまでセクバニア騎士団の城。さっきのマルスって子を王とするところだ。僕の城じゃないよ…」
 続けざまにタタラは極僅かな息を吐き出すかのように、どこだっけと口にする。
ローゼンはあえて聞かぬふりをする。そして魔術による移動は止めてただ浮くだけになる。結果的にタタラが浮いているローゼンを引っ張るカタチになる。
片手はローゼン、もう片方の腕でミレハを支えている。
「お待ちくださいタタラ様!我らが王よ!」
「待てっていうなら後ろの軍勢も止めろよバカっ!止まったら僕たちが潰されるじゃないか…あった!あそこだ」
 マルスは張りに張った声でタタラへと呼びかけるがタタラは即座に自分たちが置かれている状況を理解しているであろうマルスへとあえて言い放った。
 そして今走っている大通りと別の大通りとの交差点から左側に錆果てた鉄の小屋があった。タタラはローゼンに呼びかけるとそのままラストスパートをかけ、そのボロ小屋の中へと入って行った。

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