【長編小説】妖狐の娘の道すがら-ミレハ帰郷記・序- 第26話:留守の間

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 タタラとローゼンはソロモンがマルスを説得している間、セクバニアという国を調べなおした。
 タタラの執務室となっている書斎にはセクバニアのみならず全世界の様々な記録や歴史書物が置いてあるため、秘密裏に調べ物をするには最も適した場所と言える。
 セクバニア騎士団国連合は東西へと長い二千万平方キロメートルという広大な大地を有し、そこに住まう人口は約5億人。
 大小ある騎士団国が連なり連合国となったのは今からおよそ千年も前になる。
 記録によると1千年前と比べるとセクバニアの人口はおよそ半分となっている。
 その時代の出生記録と死亡記録を見ているとそこにはタタラでさえ驚く内容がそこにはあった。
「ちょうど1千年前に5億もの人が死んでる…こんな事はありうるのかな、ローゼン」
 死因の欄を調べてもそこは全て不明と書かれている。
 ローゼンは書斎にあるクローゼットから黒い生地に包まれ、黄金を散りばめたようなドレスを手に取り、即座に着替えながら口を開く。
「…まず5億もの人間の死因が全て不明になる時点で不可解過ぎる。だが、実際を見ていないからどうとも言えない。本当に当時の技術では解明しきれない死因だった可能性も否めないわけだからな。それに今調べているのはセクバニアの一般情報とお前が留守の間に何があったか、だろう?昔の事を調べていては時間が足りなさ過ぎる。ソロモンに聞かれる事を避けるためにお前はわざわざ追い出したのだろう?であれば今のところは現状についてまとめるべきだ。お前に変な噂が立って国の転覆を狙う反逆者らに足元を掬《すく》われてもいいのなら止めはしないがな」
 現在のタタラの立場を考えると、彼がこそこそと何かをしていたという事実だけで反乱軍には良い材料となる。そんな者たちに加わる騎士団諸国まで出てくれば連合国の歴史に泥を塗りかねず、内乱に乗じて他国からの侵攻を許す事になりかねない。
 着替えの終わったローゼンは天井まである本棚に並べられた本たちを見るとその中から気になるものを10冊ほど自身の手を使わずに引き寄せた。
「…床からのアングルで本のタイトルが見えたのかい?」
「何、千里眼の真似事だ。今更驚かないでくれるか、国王陛下」
 その呼び方やめてくれない!?と心底嫌そうな顔をするタタラを横目にローゼンは目の前に浮いている本全てを開き、その中からセクバニア全土の各文化や祭事についてまとめてある歴史本一つに的を絞った。
 他の9冊は置いてあった場所に浮遊して戻っていき、ローゼンは戻ってきた一冊を手に取り読み始める。
「…タタラ、お前は国の催し事には参加するのか?」
「騎士団議会で決められた基準は騎士団国の中で人口が5万以上の国には僕も出席する事になってる。残りの小国は自由参加でいいんだってさ。でもマルス君は国の大小関係なく祭事には参加しているって話だよ。内乱防止のためにね」
 ローゼンはタタラの口から出た言葉で騎士団議会というのに首を傾げた。
「騎士団会議っていうのは各地方ごとの代表騎士団4つによる連合国全体の規定を決める話し合いの場の事だね。セクバニアはその広大の土地から全ての騎士団国の長が一斉に集まるのは距離的、経済的にも厳しい。そこでセクバニア全土を4つの地域に分けることで、事実上、国全体の話し合いの場を設けられる事になったんだ。ちなみに、地域の名前は西から順にプロメタ地方、アステラ地方、セクバニア地方、ムローヌ地方の四つだね。」
「つまり各地方ごとに話し合いの場があり、そこで纏まったものを各地方の代表がセクバニアの会議へ持込み、そこで連合国全体の最終決定をするという事か」
 タタラはローゼンの要約に対し、人差し指を立ててご名答、と笑みを浮かべる。
「ただ議会で決まった事に不満を持つ者も当然出てくるわけなんだけど、それについても解決策は昔から決まっているんだ。不満を持つ騎士達の代表と”軍神”の名を与えられし騎士が一対一の決闘をする。不満側が勝利した場合、不満部分の改善案を出してもらってそれをまた議会で話し合う。今まで決闘をする時点で不満を持つ側が勝ったことはないけどね。それも当然なんだよ。軍神の名前は騎士団連合最強を意味するからね」
「…ん?ならばそれは絶対君主制さながらの…軍神の名を使った圧政だと言う輩を中心として民らによる暴動が起きてもおかしくはないと思うのだが。今まで反乱軍による内乱が起こらなかったのか?私はそれが不思議だ。不満を押し込められればいつかは不満を押し込んでいたツボ自体が割れてしまう。そのあふれ出した不満は人をおかしくする。間違いなくな」
 それも確かに、とタタラは顎に手を当てる。
 タタラの記憶が正しければ自分が王に選ばれてからは暴動なんて実際に見た事ないし、定期的な伝書による報告も異常なしと来ていた。
「それなりに軍神や魔術王とも長い時を過ごしてきたようだから問題ないかもしれないな。忘れてくれ、年寄りの要らぬ心配というやつだ」
「未来視ともいえるその推測は無視出来ない。けど現状が分からない事には君の推測も過信するわけにもいかないね。ひとまずこの国の情報については整理出来たかい?イシュバリアの魔女さんや」
 タタラの言葉に本をパタリと閉じるローゼン。
 彼女が手に取っていた本を浮遊させ元の位置に戻すと鼻を鳴らすだけでタタラは察して笑みを浮かべる。
 タタラとの少しの質疑応答の間にローゼンは速読というには異常な速度で数十冊の本の要点全てを脳へとインプットしていたのだった。

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